数十年前デジタルカメラが日々の世界を捉えるようになり、今や何十億というスマホのカメラが時間を切り取っています。
一日にインターネットにアップロードされる写真は5億枚とも言われ、膨大な数の「映え」が世界を取り巻いています。
そんな中であえて、アナログで写真を撮ってみませんか。手間とお金がかかり、失敗も多い。でも、1枚1枚に比べものにならない価値が生まれます。じっくりと構図を考えて練り上げた作品、ふとシャッターを切った思い出、全てに愛情が生まれるのです。
ここではフィルムカメラを操るコスト、注意、特徴を綴っていきます。
カメラ本体
まずフィルムで写真を撮るためにはフィルム専用のカメラが必要です。デジタルカメラでフィルム風の写真は撮れますが、根本的に仕組みが違うのであくまでも「フィルム風」になってしまいます。デジタルのしっかりとした設定ではアナログ独特の曖昧さを表現できないのです。
カメラには主に35mm、中判、大判と呼ばれるものがあります。大抵の人は35mmでの撮影になると思います。Nikon Fをはじめ、写ルンですに至るまで多くのカメラはこの規格で作られています。もっと言えば現在のデジタルカメラの「フルサイズ機」というのはこの35mmフィルムのフルサイズに合わせて作られたものです。フィルムについては後述します。
カメラ自体は僕の使っているNikon Fが安いモノで2万程度、種類にこだわらなければ格安で購入できます。ただ僕のおすすめは電池を使わない、全てがアナログのフィルムカメラです。露光やフィルムの巻き上げをすべて自分で行う感覚は手間がかかる分愛着に直結しますので、ぜひ電気に頼らない本当のアナログを体験してみてください。
一方おしゃれカメラとして認知されている2眼などは120mmフィルム(ブローニーとも呼ばれます)を使用する、中判カメラです。面が大きく写りが面白くなり真四角の写真もかわいいのでまだまだ多くの人に人気があります。インテリアとして置いておくだけでも絵になる、そんなカメラです。その代わり1本のフィルムで撮ることのできる枚数はかなり少なく、8枚か12枚が一般的です。また写真1枚あたりのコストが高かったり、現像に時間がかかるなど注意すべき点もあります。
このカメラはモノによりますがローライコードで2万ほどだったと記憶しています。2眼はブームになって大量に生産された過去があるので、さまざまな会社からもっと安い同等品も出回っています。
フィルム
フィルムについて、以下では35mmの標準的なものについて記していきます。
そもそもフィルムはカラーポジフィルム、カラーネガフィルム、モノクロネガフィルムの3種に大別されます。最も一般的なフィルムはカラーネガで、写ルンです等インスタントカメラにも使われています。フィルムに画像の色相を反転させたものを焼き付かせることから、ネガと呼ばれています。FUJIFILMのSUPERIAシリーズをはじめ、KodakのPortraやEkterなどが挙げられます。36枚撮と24枚撮がありますが、現像代が一緒なので36枚撮がおすすめです。カメラのキタ〇ラさんなどに現像に出せば半日ほどで写真が帰ってきます。フィルムの価格はSUPERIAで1本500円弱、PortraやEktarで1500円程度です。現像代が現像+スマホ転送で1400円なので、1枚あたり安くて50円ちょっと、高くて90円ほどになります。下の写真はSUPERIA400です。独特の雰囲気が面白いですね。明るいところでオーバー気味に撮れば、ふわりとした表現も出来るオールマイティーなフィルムです。
次点はモノクロフィルムでしょう。フィルムの歴史はここから始まり、現在までに非常に多くの歴史を記録してきました。リニアな階調表現や明るいところから暗いところまで写るラティチュードの広さといったところがモノクロフィルムの美しさを際立たせています。最も高名なのがKodakの400TXです。かの有名なピュリツァー賞の写真はこのフィルムで出来ていると言っても過言ではないです。FUJIFILMのACROSやILFORDのモノクロフィルムもそれぞれの特徴があって面白いです。価格は400TXが700円ほど、ACROSは最近出荷停止を受けて値上がりし800円ほどになっています。1枚当たりのコストは70円ほどでしょうか。
モノクロフィルムは道具をそろえれば自家現像出来ますので、コストを抑えることも可能です。自分で写りの仕上がりを調整できたり、現像直後のフィルムを手に取ることができます。行程を経てできあがったフィルムを光に透かして見るときの感動は、自家現像ならではの感覚です。また通常カメラ屋に現像に出すと早くても2週間はかかるモノクロ現像が、数時間でできてしまうのは強みと言えます。下の写真は400TXです。水のきらめきと陰が同時に映し出される表現はアナログならではです。
またモノクロフィルムは深い夜の表現が魅力的です。下の写真も400TXですが、ノイジーな質感と黒の奥深さが何気ない風景を魅力的にしてくれます。
最後に、カラーポジです。これはリバーサルフィルムとも言い、フィルムに色相を反転しない見たままの風景が焼き付きます。即ち、フィルム単体でも作品になり得るのです。またカラーの表現が奥深く非常に美しいのですが、露光にシビアで撮影に技術を要します。ただ、現在はスマホの露光計など便利なソフトもそろっているので以前よりハードルは下がっています。価格はFUJIFILMのPROVIAで1200円ほどになります。(ごめんなさい、参考画像を用意できませんでした)
便利グッズ
デジタルカメラはその時の光の具合に応じて自動的にシャッタースピードや絞り、感度であるISO値を設定してくれます。しかしながらアナログのカメラはそれらをすべて自分でやらねばなりません。逆に言うと、広いラティチュードを生かした淡い写真や、黒を強調したようなアンダーバリバリの露光などを自由に選択できます。またフィルムごとにISO値が決まっていますので、あえて暗いところでざらざらとしたノイズの質感を出すこともできます。これは特にモノクロフィルムにおいて美しい効果を生み出します。
しかし、1枚1枚にお金がかかるフィルムはそうやすやすと失敗してられません。そのため僕はスマホに露光計のアプリを入れています。これを使って大体のシャッタースピードと絞りを選択し、そこから仕上がりをイメージして調整します。これのおかげで、真っ白な写真は今のところ撮れていません。(ラティチュードが広いので適当にやっても写ってくれるのですけど)
また、カメラやフィルムを適切に保存するために防湿ケースはあったほうが良いでしょう。これはデジタルカメラでも同じことが言えます。いったんレンズにカビが生えてしまうと内部洗浄をする羽目になり、手間とコストが強いられます。そうならないように防湿ケースを買っておきましょう。防湿庫じゃなくても、安いケースなら1000円台で買えます。
コストのまとめ
これから始める、って人は大体
カメラ3万(中古のうえ製造されてから時間が経っているため、信用できるストアで買ってください。また親戚などご年配の方に聞けば譲っていただけるかもしれません。)
フィルム3本セット2500円
防湿ケース1500円
で良いでしょう。自家現像をしたい方は全ての道具をそろえるのにさらに1〜2万円かかると思って下さい。ただ現像代1400円を削ることができるので長期的に見てお得ではあります。
趣味としては毎月2本(72枚)写真を撮るとして3000〜5000円で維持できます。もちろん、撮らなければタダですし、まとめて現像に出したりフィルムのセット買いなどして安くすることも可能です。スキャナがあるならば現像のみしてもらい、データ化は家でするなんてのも出来ます。僕の知り合いならモノクロフィルムの現像とスキャンはやりますので実質フィルム代だけでOKです。
全てが素早く動く世の中で、唯一時間を止めることができるのが写真です。ゆっくりと考え、手を動かしながら光をフィルムに焼き付けるある意味矛盾の行程が、限りなく愛しい瞬間に変わってゆきます。日常にわずかな美しさを垣間見ることが出来るようになり、安らぎを与えてくれるはずです。果てしなく酔狂な趣味とも言えるフィルムカメラの世界、いかがでしょうか。